RNA診断の可能性

1. RNAはこれからの疾患を示す指標

a. DNAを用いた遺伝子診断

生物の個体内にDNAの存在が発見されたのは1869年まで遡りますが、皆様もご存知の二重螺旋構造が見つかったのは1953年と、まだ100年も経たない出来事です。
DNAが各々の生命体にとって唯一無二のものであると認識され、1988年からヒトゲノムの解読が始められます
DNA型鑑定が犯罪捜査に使われ始めたのは1989年のアメリカが初めてで、その後全ゲノム(遺伝子情報)を解析したと2003年に発表されましたが、そのとき実は8%の未解読領域があり本当に完全解読が成し遂げられたのは実をいうと2022年の出来事です

DNAにはその個体が「生まれ持った」特性を示す情報が無数に記録されているため、このDNAを解析することで、遺伝的に(先天的に)どのような病気に罹患しやすいのかがわかります。
一方でDNAの解析だけでは、喫煙や環境要因に代表される、外的要因などによる後天的な遺伝子の変異については判断が難しいのもまた事実です。

b. RNAを用いた診断

RNAはその存在自体は古くから認知されていたものの、様々な疾患に関わっていると認知され研究が始まったのは2014年ごろ(我々が世界でほぼ初めての研究者)で、まだまだ未知の分野が多くとても大きな可能性を秘める遺伝子。

DNAが先天的な可能性を示すのに対し、RNAは後天的な要因も含め、リアルタイムで体内に何が起きているのかを知ることが可能です。
またRNAは生成から24時間以内に全てのものが入れ替わるほど頻繁に転写(生成)されているため、遺伝の影響を受けにくいという特性を持ちます。
DNAは「未来の可能性」を教えてくれますが、RNAは「目の前の現実」を雄弁に語ってくれるのです。

2. RNAにアプローチする治療

RNA修飾を用いた診断を行うことで、予期していなかったものや自覚症状のないものを含め早期にがんを発見することが可能になります。
もちろん早期に発見を行うことができればこれまでに確立された治療によってがんを根治する可能性は大いに高くなりますが、それに加えて現在治験段階にある「RNA修飾を正常化する治療」が実用化されれば、RNA修飾の異常により抑圧されていた、人に本来備わっている免疫系統を正常化させることが可能になります。

T細胞NK細胞など自己免疫力が活性化しがん細胞に作用することで、ステージⅣなど既に外科的なアプローチが難しいとされるがんにも有効性が期待でき、また薬物治療や放射線治療のような心身への負担もかなり軽減されることが期待できます。

3. RNA診断が持つ可能性

RNA修飾について、現在は膵臓がんを筆頭に様々な部位のがんを中心とした研究が重ねられていますが、RNA修飾の変化がもたらす疾患はがんにとどまらず、様々な感染症や糖尿病、認知症などにおいてもその作用が確認されています

今後これらの疾患に対する研究が進めば、幅広い分野で病気の早期発見や早期治療につながる、医療の大いなる発展が期待できます。

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