RNA修飾への着目

1. RNAが仲介する「セントラル・ドグマ」とは?

a. そもそもRNAとは?

細胞の形成に関わる遺伝子や化合物の中で、「DNA(デオキシリボ核酸)」「タンパク質(プロテイン)」は様々な場所で耳にする言葉でしょう。
DNAは4種類の塩基(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン)が連なって構成され、たんぱく質の設計図である遺伝子を形成します。先天性の疾患などはこのDNAを解析することで発症前にその可能性を検知することが可能です。
タンパク質はアミノ酸が多数結合した高分子化合物で、筋肉や臓器など体を構成する細胞の主成分として非常に重要です。この形成に異常が生じると、がんなど様々な疾患につながります。

ではRNAとは何でしょうか?

b. RNAは遺伝情報の伝達者

RNA

近年COVID-19(新型コロナウィルス)のワクチンが大きな話題になりましたが、その際に「メッセンジャーRNA(mRNA)」という言葉を耳にした方も多いでしょう。
RNA(リボ核酸)は、リン酸、糖(リボース)、塩基(A:アデニン、U:ウラシル、G:グアニン、C:シトシン)の3つが一本鎖の形状で連結して構成されるもので、主にDNAが持つ遺伝情報の一部をコピーすることで作り出され、その情報をリボソームと呼ばれる場所へ伝えます。RNAは、リボソームでタンパク質を形成するためにアミノ酸をどのように繋げば良いのかを示す、図面を伝達する役割を果たします。

タンパク質の形成に関わる遺伝情報を持つものを mRNA(messenger RNA)、遺伝情報を持たないものを ncRNA(non-coding RNA)と呼び分けますが、本研究で取り扱うRNAは特に記載がない限り、全て mRNA を指します。

c. 遺伝情報に基づき作られるタンパク質

mRNAリボソームへDNAからコピーした遺伝情報を運ぶと、その内容を解析した後にtRNA(transfer RNA)が呼び出されてmRNA内のコドンを解読、アミノ酸を順番に連結するペプチド結合を行うことでタンパク質が形成されます。
この、DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→タンパク質形成までの一連の流れを「セントラル・ドグマ(遺伝子発現)」と言い、この過程で何らかのエラーが生じた時にがん細胞の形成に代表される正常では無い状況、すなわち疾患が生じるのです。

2. 遺伝子や高分子化合物の「修飾」とは

a. DNAのメチル化

かねてからDNAでは、4つの塩基のうちのシトシン(C)にメチル基(CH3)が化合(=メチル化)することが広く知られており、「エピゲノム(Epigenome)」と呼ばれるこの作用は遺伝子の「修飾」の一部とされています。

b. 「修飾」の発生と効果

酵素により「修飾」が起こります。この現象は重要な生命現象における必須のメカニズムで、通常はある一定の決められたパターンの範囲内で厳密に制御されています。
「修飾」が行われることで遺伝子やタンパク質は、従来の塩基配列を変更せずにその機能を調節し、細胞や身体の様々な制御が行われていきます。

3. RNAにもあった「修飾」とは

a. RNA修飾の発見

これまでの科学では「修飾」が行われるのはDNAで、RNAはあくまでもDNAの一部から写した図面データをアミノ酸化合物へと運びタンパク質を形成する、単なる伝達者としての認識でした。
しかし我々を含めた国内外の研究によりRNAも修飾されることが発見され、「セントラル・ドグマ」の過程で生じる疾患の要因がDNAやタンパク質のみならず、RNAにもあることが確認されました。

b. 修飾異常の発生

「修飾」を促す酵素に何らかの異変が生じている、または酵素の量に変化があると、DNAやRNAの「修飾」に異変が生じることでタンパク質の形成にも影響が及びます。
通常とは異なる「修飾」が行われることによる、タンパク質の異常形成が発生することで、『がん』に代表される疾患へとつながるのです。

我々の研究チームではこのRNAに発生する「修飾」に着目し、様々な疾患への新たな対応について研究を深め、最先端医療をさらに一歩先へ進める成果を着実に上げています。

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