1. DNAメチル化と疾患
〜 RNA修飾への着目 〜 でも示したようにDNAのメチル化については広く知られており、このDNA修飾と疾患の関係については世界中で様々な研究が進められています。
そしてこのメチル化こそが、現在確認されている限りではDNAに発生する唯一の修飾です。
全ての細胞に等しく1対ずつ格納されているDNAは、全ての細胞内で全ての遺伝情報が必要なわけではありません。例えば筋肉内の細胞であれば筋肉を構成するのに必要な情報のみを、血液内の細胞であれば血液を構成するのに必要な情報のみを「ON」の状態に、それ以外の情報は「OFF」の状態にしておきます。この「ON」「OFF」の制御に「修飾」が大きく関わっており、DNAのメチル化に異常が生じるとこの「ON」「OFF」の制御が崩れることでタンパク質の形成異常が発生、がんをはじめとする様々な疾患へとつながります。
2. DNAから「転写」されたRNAの存在価値
DNAからの転写によって生成されたRNAは、タンパク質形成のために必要な遺伝情報を運搬する役割を担っています。従来の研究ではRNAは単純に情報を運搬するだけの機能であり、それ自体が変化をすることはない単純な入れ物としての認識でした。多くの疾患の発生原因はあくまでも遺伝情報を保持するDNAや、DNA修飾に発生した異常が原因によるタンパク質の形成異常であり、RNAに直接的な因果関係は無いと考えられてまいりました。がんなどの疾患が発生した際にRNAの生成量が通常に比べて大幅に増減することは確認されていましたが、それもDNA由来のものと捉えられておりました。
3. RNAにも存在した「修飾」
がんの発生と遺伝子やタンパク質の形成異常との関係を研究する中で、ただの遺伝子の運び屋と思われていたRNAにも様々な酵素が作用し修飾が行われていることが発見されました。我々のチームもこの現象にいち早く着目し、世界に先駆けてこの「RNA修飾」に関する研究を始めました。
2014年頃から本格化した研究の中で、DNA修飾はメチル化の1種類のみが確認されているのに対し、RNA修飾は既に170種類以上の修飾パターンが確認されており、RNA修飾の複数パターンの組み合わせの照合によりどんな疾患に罹患しているのかを特定する研究を進めています。
またRNAの修飾もDNA同様にそれぞれ特定の酵素が発生要因として関係しており、必ずしも全てがDNAやその修飾に由来するものではないことから、このRNA修飾のパターンを読み解くことこそが「いま・どこで・何が」体の中で起きているのかを正確に読み取る鍵となります。