検査や治療リスクの低減と高効率化

1. ターゲットを絞らない癌検査

最も解析が進んでいるm6A修飾をはじめRNAには170種類を超える修飾のパターンがすでに認められており、個々の疾患に応じて幾つかの修飾が組み合わさって現れることが確認されています。
DNAと異なり大量に存在するRNAは、微量の血液や尿でも様々な項目での検査を行うのに優れています。

一定の検体から検出されるRNA修飾の種類およびそれぞれの量を計測することで、被験者の体内にどのようながんがどの程度のレベルで存在しているのかを正確に推測することが可能になり、従来のように疑いのあるがんの種類に狙いを定めて検査を行うのではなく、がんの罹患の有無すら想定しない中で行う血液検査によって体内の状態を把握する、いわゆる「疑わずして疑う検査」を確立することが可能になります。

2. 癌の発生要因を抑え、ステージを進めない治療

がんは、何らかの要因がもたらすタンパク質の異常形成により引き起こされます。「セントラル・ドグマ」の項でも記した通りタンパク質の形成に直接関わるのがRNAで、その修飾異常がタンパク質の異常形成、すなわちがんの発生となるわけです。
そこで、がん細胞が形成される以前の過程において「セントラル・ドグマ」内にあるエラーを取り除いてやれば、そもそもがん細胞の発生を抑えることも可能になります。
現在RNAの修飾異常に作用する新薬がアメリカの研究チームを中心として開発されており、実用化すれば「がん細胞の発生をその根源から防ぐ」ことができ、新たながん細胞の発生やすでに発症しているがんの進行を食い止めることが期待できます。

3. 自己免疫力による癌細胞の駆逐

人体の自己免疫系統の中で、T細胞(Tリンパ球)NK(ナチュラルキラー)細胞と呼ばれるものががん細胞の増殖や転移を抑えるのに役立っていますが、これらはRNAのm6A修飾の量に増すにつれてその能力を抑制されていくことも確認されています

すなわち前項で述べたRNA修飾に作用する新薬が実用化されれば、m6A修飾を抑えることによって新たながん細胞の発生を防ぐとともに、抑制されている自己免疫系統の作用を復活させることで体内にすでに発生しているがん細胞を駆逐する効果も期待できます。
さらに自己免疫力は患者の体内で作り出されるもので副作用の恐れがなく、抗がん剤や放射能療法に頼る現在のがん治療に比べ患者のQOLを格段に向上させることも期待できます。

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