1. がん検診の対象となる癌とその方法
癌を無症状のうちに早期発見・早期治療し癌が原因で亡くなることを防ぐために国が推奨する「がん検診」は、以下の5つの癌が対象となっています。
a. 胃がん
胃がん検診では、問診及び胃部X線検査または胃内視鏡検査を行います。
問診時に注意される自覚症状は、胃の痛み、不快感、食欲不振、食事がつかえるなど。
胃がんは胃壁の内側の粘膜に発生し、ピロリ菌感染や喫煙習慣に加え塩分過多の食生活や高ストレス環境下でリスクが増加します。
市販の検査キットなどでは、便を用いてピロリ菌の抗原を検査する方法もあります。
b. 大腸がん
大腸がん検診では、問診及び便潜血検査を行い、便潜血が認められたら内視鏡検査やX線・CT検査へと進みます。
問診時に注意される自覚症状は、血便、腹痛、便の性状や回数の変化など。
大腸がんは日本人男女の罹患率第1位、その名の通り大腸(結腸・直腸)に発生する癌で、喫煙や飲酒や肥満に加え加工肉や赤肉の摂取などでリスクが増加します。
c. 肺がん
肺がん検診では、問診及び胸部X線検査、50歳以上は左記に加え喀痰細胞診も行い、異常が認められたら胸部CTや気管支鏡検査へと進みます。
問診時に注意される自覚症状は、血痰、長引く咳、胸痛、声のかれ、息切れなど。
肺がんの原因は明らかになっていませんが、喫煙やラドンガス、ディーゼル粒子、クロム化合物、アスベストそしてPM2.5などが原因・誘因になりうるとされています。
d. 乳がん
乳がん検診では、問診及びマンモグラフィを行い、異常が認められたらマンモグラフィの追加検診や超音波検査、細胞診、組織診へと進みます。
問診時に注意される自覚症状は、しこり、乳房のひきつれ、乳首から血性の液が出る、乳首の湿疹やただれなど。
乳がんは40代以降の女性罹患率第1位の疾患で、乳腺組織にできる癌。女性ホルモンであるエストロゲンの過剰や飲酒、閉経後の肥満、運動不足などでリスクが増加します。
e. 子宮頸がん
子宮がん検診では、問診、視診、子宮頸部の細胞診及び内診を行い、異常が認められたらコルポスコープ下の組織診や細胞診、HPV検査へと進みます。
問診時に注意される自覚症状は、月経(生理)以外の出血、閉経後の出血、生理不順など。
子宮頸がんは20代〜30代女性の罹患率第1位の疾患で、性行為により感染した特定のHPVによって引き起こされます。
市販の検査キットでは、尿検査によって尿中に含まれる遊離スルフヒドリル基を検出し、HPV(ヒトパピルマーウィルス)を検知する方法もあります。
2. がん検診の課題
がん検診には以下のような「不利益」も存在します。現在の検査技術では癌は発生してから一定の大きさになるまで発見できず、また検査では見つけにくい癌も存在するため、全ての癌をがん検診で見つけられるわけではありません。
a. 偽陰性や偽陽性による誤診
偽陰性:実際には癌があるのに、精密検査が不要と判定されること。結果として癌の治療に遅れが生じます。検診ではある一定の大きさにならない限り癌を発見できないため、偽陰性の排除は困難です。
偽陽性:実際には癌がないのに、精密検査が必要と判定されること。結果として本来受ける必要のない精密検査や医療行為で心身ともに負担がかかります。検診はがんの疑いがある人を広く拾い上げてから精密検査で篩いにかけるため、偽陽性の排除も困難です。
b. 過剰診断
がん検診では、命に別状のない癌(成長速度が極めて遅いなど治療を施さなくても命を脅かさない癌)が発見されることもあります。発見した癌に対して治療が必要であるか否かを正確に判断することは難しく、通常は全ての癌に対して治療が行われるため、身体的、精神的、経済的負担がかかります。
c. 偶発症のリスク
内視鏡による出血や穿孔、バリウムの誤嚥や腸閉塞、放射線被曝など、検診や精密検査での医療行為により合併症が発生する場合があり、全ての検診でリスクがゼロということはありません。
3. 腫瘍マーカーを用いた検査の対象となる癌
以下の4種の癌は、罹患の有無の判断に腫瘍マーカー(癌の種類によって特徴的に作られるタンパク質などの物質で、癌細胞や癌細胞に反応した物質によって作られるものの有無を確認する検査。癌の有無や癌の進行状況までを確定することは不可能)を用います。乳がんを除いては早期発見が困難なものばかりで、がん検診の検査対象項目に含まれておりません。
a. 乳がん
40代以降の女性罹患率第1位の疾患である乳がんは、アルコールが好きな方や働き盛り世代の方に特に注意が必要です。
血液検査によって「CA15-3」という、乳がんを含む婦人科系疾患の腫瘍マーカーを検出します。
b. 肝臓がん
肝臓がんとは肝臓にできる癌の総称で、発症後1年以内の死亡率No.1の疾患です。
B型肝炎やC型肝炎ウイルスの感染、飲酒、肝硬変が影響すると言われ、糖分や脂質を取り過ぎな方やアルコールが好きな方は特に注意が必要です。
血液検査によって「AFP」という、肝細胞癌などの悪性疾患で発生する腫瘍マーカーを検出します。
c. 前立腺がん
45歳以上の男性罹患率No.1の疾患である前立腺がんは、男性のみに存在します。
患者の約90%が60歳以上であり高齢者に多い癌といわれ、働き盛りな世代の方や高齢者がいるご家族の方は注意が必要です。
血液検査によって「PSA」という、前立腺特異抗原である腫瘍マーカーを検出します。
d. 膵臓がん
発見後の生存率ワースト1位が、この膵臓がんです。
胃の後ろにある膵(すい)臓に発生する癌で、糖尿病や肥満、飲酒、喫煙などが発生率を高めるため、近年増えているリモートワークで運動不足の方やストレスが多い方は特に注意が必要です。
血液検査によって「CA19-9」という、主に消化器系疾患を示す腫瘍マーカーを検出します。
以上からもわかるように、現在のがんに対するアプローチは、
- 問診による自覚症状の有無が検査の進行を左右する
- 特定の癌に狙いを定めた検査方法しか存在しない
- ある程度症状が進行しないと陽性反応が出ない
ために、速やかに正しい診断が下せなかったり、何度も検査を繰り返すことで心身ともに負担がかかってしまうことなど、まだまだ多くの課題を抱えています。